本日はご多用中のところ、当会にご参集賜り誠に感謝の念に耐えません。
(略)
この事業の由来を考えるときに、稲の持つ力を考えざるを得ません。この日本において稲は特別な作物です。
今年に入り皇室典範改正の問題が騒がれました。神武天皇以来、百二十五代、二千六百六十六年の伝統について、私たち国民にその意義を問いかけることとなりました。
日本における稲の由来は古典を紐解くとき神話に由来していることが解ります。はるか神代の時代、伊耶那岐尊(いざなぎのみこと)様が左目を洗ったときに天照大神(あまてらすおおみかみ)様、右目から月読尊(つくよみのみこと)様、鼻から素戔鳴尊(すさのおのみこと)様がお生まれになりました。
月読尊が、天照大神の命を受け、葦原中国(あしはらのなかつくに)の保食神(うけもちのかみ)を訪れます、保食神が饗応のため、陸に向かわれると口から米の飯が出てきました。海に向かわれると大小の魚が出て。山に向かわれると動物たちが出てきました。このとき月夜見尊は、「けがらわしいことだ。いやしいことだ。口から吐き出したものを、わざわざ私に食べさせようとするのか」とおっしゃり剣を抜いて、保食神を撃ち殺されました。
天照大神にそのことを報告されますと、非常にお怒りになって、「お前は悪い神だ。もうお前に会いたくない」とおっしゃり、月夜見尊と昼と夜とに分れて、交代に住まわれるようになります。天照大神は天熊人(神に供える米を作る人)に保食神の様子を見にやると本当に死んでいました。ところがその頭に牛馬が生れ、額の上に粟が生まれ、眉の上に蚕が生まれ、眼の中に稗が生じ、腹の中に稲が生じ、陰部に麦と大豆・小豆が生じていました。天熊人は、それをすべて持帰りました。すると天照大神は喜んで、「この物は民が生きて行くのに必要な食物だ」とおっしゃり栗・稗・麦・豆を畑の種とし、稲を水田の種としました。邑君(むらぎみ)を定められ、その稲種を天狭田(あまのさなだ)と長田に植えました。その秋の垂穂は、八握りもある程しなって大そう気持よかった。と記してあります。
そして、いよいよ天照大神の孫にあたる瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)様が日向の高千穂峰に降りられることになります。このとき、「葦原千五百秋瑞穂国、是吾子孫可王之地也、宜爾皇孫就而治焉、行矣、寶祚之隆當與天壤無窮者矣」
(あしはらのちいほあきのみづほのくには、これあがうみのこのきみたるべきくになり、よろしくいましすめみまゆきてしらせ、さきくませ、あまつひつぎのさかへまさむことまさにあめつちときはまりなかるべし)とおっしゃいました。
およその意味は「この日本の国は、私の子孫が君主たるべき国である。さあ瓊瓊杵尊よ、行ってしつかりと治めなさい。つつがなくお行きなさい。天つ日嗣は、天地と共に限りなく栄えるでしょう」という意味です。そして三種の神器(「八咫鏡」「草薙の剣」「八尺勾玉」)と共に「蒼生(あおひとぐさ=天下万民)の食ひて生くべきものなりと「斎庭の穂(ゆにはのほ)」を授けられた、とあります。これが神話に見る稲の由来で、この詔は「天上無窮の神勅」と呼ばれるものです。
初代天皇として即位された神武天皇は瓊瓊杵尊様の曾孫にあたります。
ここで科学的な面から稲について知っておきたいことをお伝えします。
最近、稲の遺伝子の解析が終了しました。いわば稲の構造設計図が解明されたのです。これにより稲の遺伝子数は約四万個と推定されました。人の遺伝子数が約三万個ですので、稲のほうが一万個も遺伝子を豊富に持っていることが明らかになりました。
おそらく、稲はこの地球上に人類が誕生するはるか以前から、完成された植物として地上に生息していたと思われます。
稲を包むもみ殻を良好な発酵を行うことによって良質な肥料にする術を得ました。しかし、もみ殻を再利用する技術の遺伝子は既に稲の遺伝子に含まれていたのかも知れません。
先ほど、神話のお話をしましたが、人類よりはるか以前に存在していた稲の力を古代の人々も畏れ敬っていたのは当然の事と思われます。
私たちは稲によって生かされ生きています。今や全人類の半数は稲を主食としているといわれています。稲なくして人類はこの人口を養うことが出来ないし、稲も又、人類が稲を伝播しなくて繁殖出来ない植物かも知れません。(水田を作るのは人間にしか出来ないことですから)
稲と人間の営みには密接な関係があるのです。
歴代の天皇は、神田をつくり御自ら稲作をされ、神にささげられます。この日本で稲を作る事がどれほど重要視されているかが伺えます。
この事業は始まったばかりですが、不思議な縁故によって進展していると感じざるをえません。これも稲のもつ遺伝子のなせる業なのでしょうか。
事業を進展する責任を持つ身として、よりいっそう謙虚に、稲のもつ力にならい、この事業の発展に寄与できることを幸いといたします。
平成十八年二月十六日 石井一行
以上転載
編集後記
たいへん長い文章になってしまいました。又、遺伝子の数も正確ではありません。当時の情報です。不思議な縁によって私がナルナルを管理しておりますが、多くの方にご利用いただけるよう尽力したいと考えております。今後共どうぞ、宜しくお願い申しあげます。